新しいものを創る時の割り切り

このブログで何度か書いていたNovoEdという比較的新しいMOOCプラットフォームでコースを提供側にいるのですが、そこで感じたことをちょっと書いてみます。

そもそも私はグロービスで、業界において稀な(と聞いていた)「品質保証制度」というものが適用されているサービス(=学びの場づくり)を提供する仕事をしていて、その前は「リスクヘッジ」という業界用語が頻繁に使われている証券会社で仕事をしていた人間です。不確定要素(特にダウンサイドの)は相応しくないもの、避けたいものという考えが染み付いていて。どうやったら考えうるシナリオを全て想定し、ダウンサイドに対応してから行動するか、といった思考を鍛えられながらの社会人生活を過ごしていました。(参考:2003年7月のリリース「グロービス、企業向け研修業界初となる「品質保証制度」を開始」)

そんなマインドセットの人間だったので、一昨年関わることとなったMIT Media Labの「まずはとにかくやってみよう」的なScratchのプロジェクトとか、「走りながら壁にぶつかったら考えよう」的なAcumen(当時はAcumen Fund、チャプターメンバーとしての出会い)との出会いには少なからずのショックを受けました。きっとこの二つの出会いが無かったらガチンコ「ベンチャ-企業」であるQuipperには適応することすら難しかったとまで思っているほど。(それでも、こっち側の中でも相当risk averseで保守的な方の人間ですが)

自分がコントロールできないものがある、それでもいいや、やってみようという気持ちになる、って簡単そうで、実は難しく。MIT, Acumen, Quipper的な世界の中では当たり前ふつーのことなのに、当初自分は「頭で分かっていても心が条件反射を起こす」状態にありました。

Acumenのアドバイザーの一人であるSeth Godinが「If you are not embarrassed with your first project, you waited too long」と言っており、それをマントラのように唱えているマネージャーの元でプロジェクトを昨年進める中で、何度その自分の心の条件反射を意識するようになったことか・・・。

今回のMOOCのプラットフォーム活用も初挑戦。そもそもチームに特殊なノウハウが揃っている訳でもないし、最初からリスクを全て想定することはほぼ不可能。9000人を超える人達に登録してもらったコース、おっかなびっくりでの始まりでした。(現在進行形)

今回コンテンツは協力パートナー企業のものだったので、その届け方や、学んでくれる人達がコンテンツを消化していくかの仕組みのところのお手伝いが私はメインだったのですが、やはりこの人数(しかも受講生の大半は大卒以上、教育関連の仕事に関わっている人の比率の多さ、参加地域の特性などを見ると比較的「目が肥えている」受講生も多い印象・・ビクビク)、開発途上のプラットフォーム・・・やはりポコポコ出てくる出てくる、想定していなかった課題が。いっぱい。

毎週それに対応し、どう改善していくかの試行錯誤の繰り返し。

直近12月にコンテンツそのものをゼロから開発するコース設計とパイロットコースの実施(30人弱のパイロット参加者)をしていたため、「走りながら壁に〜」はもちろん、「全く完璧でないけれども、この試作品に対するフィードバックを元により良いものを創るから助けてください!」のスタンスが自分に既にしみ込んでいたのがせめてもの救いだったと今では思います。

パートナー相手の担当者が2年前の自分のような人なので、気持ちは良く分かるのです、自分もそうだったから分かる。

今回も受講生の中にはがっかりしちゃった人とか、声すらあげないでスッといなくなった人もきっといるでしょう。そのことを考えたら昔の自分だったらソワソワしてしまっていたかと思います。

一方で丁寧に色々フィードバックをプラットフォーム上に出してくれる人達もたくさんいて、ポジティブなフィードバックをくれる人の声を途中途中励みにしながら、どうやったら時間をかけてくれた意見を反映させ、どうより良くできるかな、と動いています。もちろんソワソワが完全に消えるわけではないのだけれど、少しでも早く良いものにしたら、きっとより多くの人に喜んでもらえるのではないかと思うから。

不満を感じる原因がプラットフォームでもコンテンツでも届け方でも学んでくれている人からみたら一つのコースな訳で、どんな矢が飛んで来ても次の提供バージョンをより良くすることにつなげることに全力を注ぐしかない。そんな状態。

すでにある程度できあがっていて、完成度が高いものを提供するとき、品質のこだわりに意識が向けている時のマインドセットはどちらかというと練習を重ねたオーケストラのパフォーマンスやピアノコンサートのイメージ。

一方新しいもので、完成からはほど遠いものをユーザー「様」の目の前に出す時に必要なマインドセットは、なんだろう・・・・書道・・・?。墨が垂れちゃう時やハネが足りない時もあるけれど、なんどか練習したら壁に飾れるようになる、多分。・・・そんな気持ち。

本当は一人で練習し続けてからお披露目すれば、心のソワソワを感じることは少ないのかもしれないけれど、、やはり人間相手のサービスはユーザー「様」の目の前に出さないと本当に求められているものに近づくことはやはり難しい。

ということで、何が正しいあるべき姿かが分かりにくい、人間を相手にする新しいものを創る時って、ある程度自分の心の中にある完璧を追求したくなる欲求を手放して、critical feedbackが飛んでくることを覚悟しながら、中長期のゴールを見つめながら、足下の色々な不安にはある程度の割り切りが大切なのかも、と噛み締める今日このごろです。

最後に・・・・そんなこんなで完璧からはほど遠いけれど、外に出してしまっているものに対して、真摯にポジティブ/ネガティブ共に声を届けてくれるユーザー/受講者の方々には本当に心から感謝しています。彼らのような人達がいるからこそ、prototype▷iterationが成立するわけで。本当にありがとうございます。





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