HILTカンファレンス参加:ハーバードでの教え方+学び方の進化のために

Harvard Initiative for Learning & Teaching (HILT<ヒルト>)が主催している
カンファレンスに期末試験期間(プロジェクト取り組み期間)に参加しました。
(なんともう2週間も前のことです)

この、HILTという取り組みは、2011年から始まったもので、
ミッションは
「catalyze innovation and excellence in learning and teaching at Harvard」 
となっています。
ハーバードで教鞭を取られている方々(または教授陣によるlearning and
teachingに関する仕組みづくりに携わっている方々)を対象にしているものです。

昨今教育の世界で注目されていることの一つが「高等教育機関のこれからのあるべき姿」
(過去の関連エントリー:MOOC①MOOC②
ということもあり、興味があって(&プロジェクトからの逃げ場が欲しくて)
同じTIEプログラムのクラスメートと参加してきました。
以下は簡単なオープニング動画です。


開催二年目となる今年のテーマは
「In this time of disruption and innovation for universities,
 what are the essentials of good teaching and learning?
でした。昨年が「the year of MOOCs」と言われていたことにも
象徴されているように(有名になったNYTの記事)、
過去12ヶ月で高等教育業界を取り巻く環境が大きく変化し始めたこともあり、
明らかに教育へのテクノロジー技術の浸透を意識した
(それだけではありませんが)テーマ設定になっていたと感じました。

カンファレンスは朝9時から午後4時半過ぎまで、
大きく分けて以下のアジェンダが設定されていました。(詳細

① Welcome remarks
② Session 1: Science of Learning(学びという科学)
 How can scientific research inform the practice of teaching and learning?
③ Session 3: Art of Teaching(学びというアート/芸術)
 What choices can instructors make to benefit students over the long term?
④ Session 3: Innovation, Adaptation, Preservation
 How should we innovate and adapt our approach to teaching and learning, 
 and what should we preserve?
⑤ Session 4: The Essentials
 An interactive discussion of the essentials of good teaching and learning 
 with the artistic director of American Repertory Theater

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今回の感想+発見:
・環境変化を意識しながら自ら学び続けようとされる
 超一流のプロの方々の真剣な姿勢が刺激的だった
・聞き手(参加者、学生、観客・・)を上手く巻き込むという
 行為はアートだと再確認
・American Repertory Theaterという素敵な団体の存在を知る
・今回のHILT、Project ZeroのLILA、
 Center on Developmental ChildのFOI・・専門分野/
 専門役割を超えた現役プレーヤーが知見や問題意識を
 持ち寄り、共有し、意見交換をする場というものが
 これからの時代の様々な課題設定+課題解決のベースに
 なっていくのではないかな、と感じた
(専門家だけが集って議論する方法は限界?)
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以下は自分の振り返りも兼ねた上記カンファレンス参加メモ

①より:
・Alfred Whiteheadの引用
「Education with inert ideas is not only useless; 
 it is above all things harmful」(1916)
・「Future is about rethinking education....
    using technology in new ways to improve outcomes」

②より:
■DANIEL WILLINGHAM | CRITICAL THINKING |
 Professor of Psychology, University of Virginia/認知心理学者
 ※この人の話はとても面白かった※
・critical thinkingとmemoryの関係
・memoryが味方になることもあるけれども(つながりを見出すことが
 できれば深く考えることができるので)一方でmemoryの存在が
 critical thinkingの邪魔になることも(無意識のうちに記憶に依存して
 しまうことがあるため)
・critical thinkingをサポートするような、関連性の高い内容の
 memoryを持っていることに「気付かない」ことが多いという問題の存在
・「気付くrecognize」が難しいのはdeep structure of knowledgeの有無
 に関係する。最初に学ぶ時にこの深いレベルで知識を吸収していないと
 「気付く」が起こりにくい
・またcritical thinkingの種類、必要な学習内容は分野によって異なる

■KATHERINE RAWSON | EFFECTIVE STUDYING |
 Associate Professor of Psychology, Kent State University
・効果的な勉強方法として"successive relearning"(要は連続して
 行う復習)を提唱
・「学ぶ力を学ぶ」学生にもっとも必要なのがこの学習方法だと言う
・(個人的感想)
 色々な研究結果を用いてこれがなぜ有効で重要なのかを語っていたけれども
 暗記系の学習内容の印象が強く、これを同じように実行できない「学び」
 はどうなのだろう、という感想を抱く

■DANIEL GILBERT | PERSPECTIVE TAKING
(物事に対して多様な見方をすることのできる力) |
 Edgar Pierce Professor of Psychology, Harvard University
・メタファー:USBは素晴らしい、なぜならデバイスからデバイスへ
 情報をトランスファーできるから。iPadとPCはcompatibleでないので
 このトランスファーができない
 ▷人に何かを教えるという行為も情報をトランスファーする行為を含む。
 ただしデバイスが異なっていてcompatibleでないもの同士で
 あった場合はどうだろう?トランスファーは容易ではない。
 =つまり教える側は自分達が何を知っているか(教える内容)の理解は
 もちろんのこと、学生達が何を知っている状態なのかを理解していなければ
 いけない
・2歳児は自分の見方と世界の他の人の見方が同一だと考える
 (このegocentrismは大人になるにつれ消えて行くのだが・・
 実は完全に消え去る訳ではない)
・いくつかの実験紹介="Your knowledge is changing prediction of 
   what other would think" Knowing the answer makes it difficult for
   other people to guess what other people would think about the answer"
 つまり答えを知っている先生は知らない学習者の頭の中について
 バイアスのかかった考えを持つ傾向がある、と。(テストの問題作成などに
 影響がある)
・また、大人になってegocentrismから他者の考えることを考える訓練が
 身に付いたとしても本能的にはegocentrismなことを瞬間的に
 考えたり、反応する、ということが研究(目の動きなど)で証明されている、と
「we cannot turn off what we already know」
・最低限できることは「We can be aware of it that the way we look 
  is not the way other people see it」と自己認識をまず持っておくこと

■上記3人を混ぜた質疑応答から一部
・technology is not fundamentally changing cognitive architecture bc 
 our mind is still somewhat flexible
・multitasking almost always carry a cost. cost to accuracy, cost to speed. 
 the only exception is media multitasking (the research on the benefit
   of having music on is mixed, tv is always not helping according to research)
・social interaction and cognitive progress (as suggested by piaget),
   bumping with other ppl who have different POV (point of view)
   but the problem with social interaction is that it tend not to seek ppl 
   who will challenge our POV and thinking about our reality, thus the impact
   of social interaction/social network is mixed
・offload the knowledge acquisition of fundamental knowledge and 
 use in class time more for practice (flipped classroomの概念ですね)

③より
■JENNIFER ROBERTS | TIME AND SKILL
 Professor of History of Art and Architecture, Harvard University
 ※実際に授業で取り扱ったアートを使ったこの人の話とても面白かった※
・美術史の授業の一環の話。3時間ボストンのMusum of Fina Artsで
 一つの絵を観察させる
・視覚の力というものは非常にパワフル、直接的で瞬間的だ。
 でも本当に「見る」ためには時間が必要
 Just because you have looked at it doesn't mean you saw it
(意識的に見たとは言えない)
・Just because you have access to it doesn't mean you learned it
・3時間の観察で伝えたい事はcritical attention, patient investigation,
   being skeptical about immediate surface appearnaceの重要性
・the world of delay and waiting, teaching strategic patience
・今の時代、patienceとは学ぶべきスキルである
 時代の変化と共にpatienceという概念をとりまく時間のあり方も変わった
 patienceの意味そのものも変化しつつある
・patientであるということはactiveでcognitiveな行動である
・”perceive patience as an innovation, medium for learning"

■ANDREW HO | EVIDENCE AND ASSESSMENT |
 Associate Professor of Education, Harvard University; 
 Chair, HarvardX Research Committee
・数字は本来の意味を離れ一人歩きしやすい

■JONATHAN WALTON | PASSION AND SINCERITY |
 Plummer Professor of Christian Morals, Pusey Minister in the 
 Memorial Church; Professor of Religion and Society, Harvard Univ.
・世の中には2種類の人がいる
 ①type of people who want to be someone
    (lawyer, doctor, politician, titles and roles)
 ②type of people who want to do something 
 (want to engage in activities that are bigger than themselves, 
 they want to enact change, they want to be social engineers, 
 they want to engage themselves in the world that they want to serve, 
 and also lose themselves)

④より
■FRANCES FREI | INNOVATION
 UPS Foundation Professor of Service Management; 
 Senior Associate Dean for Faculty Planning and Recruiting 
 at Harvard Business School, Harvard University
 ※おそらく一番聴衆の心を掴むのが上手かった※
・自分達夫婦の子どもに対して自分はdeep devotionがあるけれど
 high standardsを課すことが(厳しくしつける事が)できない
・一方HBSの教授は学生に対しhigh standardsを課すことはできるけれど
 deep devotionを与えることはできない、感情がある人と考えると
 厳しくできなくなる(humanityの側面)
・上記の二つはこの世の中の両極端のケースであり、他の全ての事は
 その間に存在する
・実はdeep devotionとhigh standardsはトレードオフの関係にある概念
 これらをそれぞれ高低でX軸、Y軸とプロットしたときに「イノベーション」
 とはどこをさすのか
・イノベーションを起こそうとしたときに2種の勇気が必要
 一つ目はWhat not to doを決めること
 もう一つはWhat is worthy of usを定める事(私達は細々とした小さな
 改善の積み重ねで時間を埋めることに安易に流れてしまう傾向がある
 それに流されるのではなく、集中して取り組まなくてはいけないところを
 見極めることが重要)
・HBSは近年新しいリーダーマネージメントが就任した
 何に集中して取り組まなくてはいけないかということを観察&調査した
 結果、二つのことに気付いた
 ・外部環境が大きく変化していた、その状況において「To develop leaders
      to make changes in the world」という目的を達成するために必要な
  ことが変化してきていたことに気付いた。ケースメソッドはまだ有効な
  場面が多い一方でそれでは不十分な世界が生まれ始めていた
 ・HBSに入学してくる人のdemographyにHBSとしては嬉しくない
  偏りがあることに気付いた
・FIELDメソッドを導入した。ケースメソッドと同じくらい今は重視されている
(詳細はこちら、webで見つけたVimeoはこちら
 ・特徴として小グループ、experiential(体験重視)
  多様な環境設定、評価のあり方も自身の取り組みの成果、自分のチームメートの
  パフォーマンス、仲間によるpeer ratingの結果を考慮する、という仕組みに
  した
 ・"今年上記の変化を導入してからの初の代が卒業する、彼らの将来が非常に
  楽しみだ"
・Definition of leadership:
   Leadership is about making others better as a result of your presence,
   and doing it so that it lasts in our absense.

■JULIO FRENK | ADAPTATION
 Dean, Harvard School of Public Health
 ※とても強いリーダーシップ&イノベーティブなDeanという印象※
・T-shaped individuals (breadth and depth)を育成することの重要性
・Admission (入学)▷ [pipe] ▷Graduation (卒業)ではなくもっと
 open architecture with multiple opening with multipe experiences
 を意識して、柔軟でmodular experimental leaningを仕組みに取り組んだ
・異なるLearningのレベル、これらの複数タイプのlearningをオンラインと
 residentialの両方の環境で提供している
 ①Informative learning(オンラインは7割前後、残りはresidental)
 ②Formative learning(we build skillset, socialize, becoming experts)
  オンライン、residentialそれぞれ半々くらい。「なりたい姿になるため」の
  学び。
 ③Transofrmative learning(information, Expertになるために必要な
  value信念やcompetencies能力のみならずchange agentとなるために
  必要なことを習得するタイプ)(オンラインは2割くらいにとどまる) 
(個人的な感想:この区別の仕方、なんだかとっても納得。また、
 オンラインがどこにおいても少なからずの比率を占めて行くというビジョンを
 持っているFrenk Deanの見方がとても革新的なものとして感じられました
 もちろん分野によって比率は若干上下するのでしょうが。未来はそういう
 「ミックス」環境になっていくと私も思います)
3月3日のBoston Globeの"The newest revolution in higher education"
 引用しながら(実は黒板のことを冒頭で語っている面白い記事です)
 "Essentials of innovation is...built on the legacy, previous innovation and
    enrich them with present innovation so that we invent the future"と
 締めくくっていました

■NANNERL O. KEOHANE | PRESERVATION
 Member, President and Fellows of Harvard College;
 President Emerita, Wellesley; President Emerita, Duke
・今後も大学として守っていけたらいいなというもの
 ・Institutional royalties to particular institutions
 ・Passge to adulthoodの体験の場
 ・Extracurricular activities (sports, arts, parties, exploration
  community service, etc)
 ・Physical spaces/beautiful buildings (architecture, museums,
      libararies, etc)
・今後We should try to be sure to preseve(守るべきもの)
 ・Accessibility(教育へのアクセスはどのようなバックグラウンドの
  個人も平等にあるべき)
 ・Cannon of human accmplishment(歴史上の偉業の理解の深化)
  literature...and classics... by using, thinking, reusing, reinterpreting
      the knowledge in the broader sense
 ・Marvelous symbiosis between teaching and research by both
      faculties and students(教えることと研究することは維持し続けて
  いかなくてはいけない)
 ・Community of teachers and learners (having a chance to come
      together on what they have learned) - most important and most
      pressing obligation

⑤はメモがないのですが
American Repertory Theaterのartistic directorが
人を惹き付けるステージパフォーマンスのこつ、
ストーリーテリングの練習などを含めながら観客皆参加型のワークショップを
ファシリテーションしてくれました。
ストーリーテリングのテーマとしては
「自分にとって印象的な先生、学習体験、生徒」が挙げられ、
会場にいた数少ない学生(学部の1年生もいた!)数人からストーリーの
共有があり、教授側からもストーリーからの共有がありました。

最後の最後に今回のイベントの全体のコーディネータをしていた
ROBERT KEGAN教授 
William and Miriam Meehan Professor in Adult Learning and 
Professional Development, Harvard University
が彼にとっての印象的だった生徒の話が共有されました。

「僕にとって一番印象的だった学生はあの日、ハーバード大学の卒業式に
 参加していました。

 彼女は女性が教育を受けることにそこまでサポーティブな家庭環境に
 いなかったため、家事などを全てこなしてから、という条件付きで
 ハーバードにはパートタイムの生徒として通っていました。

 そのような条件だったため、一学期に彼女が履修できたクラスは少なく、
 他の学生がもっと短い期間で卒業するプログラムを彼女は18年かけて
 修了させたのです。

 その彼女の待ちに待った卒業式。
 あのときの彼女の表情を忘れません。


 彼女が18年前にこの大学に入学した時、彼女は71歳、
 あの日卒業式の彼女は89歳でした。

 自分にとって忘れられない学生は、彼女でした」

私の周りでハッと息を呑む音。

この話は1997年のことなので(関連記事
会場にいた教授達で知っている人は多かったのかもしれません。
私にとってはもちろん初耳だったので
聞いた時は鳥肌が立ちました。

以上、まとめたくてしばらくまとめられなかった5月8日(水)にあった
HILTカンファレンス参加メモでした。
いつかビデオもアップされるようです。