cMOOCとxMOOCについて

ちょっと前に書いたMOOCエントリーの続きです。

日本帰国前の飛行機の中で書いていたのですが、あまり上手くまとめることができず、しばらく放置していました。日経にMOOCの話が載ったからか、なんだかこのテーマ、日本でも少し注目され始めている気がします。

このエントリーのポイントは以下の2つ。①MOOCという概念は最近突然登場したものではないということ、②ただし最近話題になっているMOOCとMOOC誕生期のものとは背景にある学びの理論が異なっているということ


①MOOC誕生、実は5年以上前 

ちょうど8月下旬にMOOCという単語がOxford Dictionary入りしたことが話題になりました(8月28日のEducation News記事)同じくEdTechの世界(そこだけではないですが)でも良く耳にするようになったBYOD(Bring your own device)も同辞書に採用されたと聞き、なんだか時代の流れを感じます。

で、上記の記事にさらりと書いてある話。
  • そもそもMOOC第一号は2008年にカナダのGeorge SiemensとStephen Downesといった学者達が提供した「Connectivism and Connective Knowledge」というコース(通称「CCK08」)だったということ。2008年、今から5年以上も前のことです。
  • 同時期にカナダにいたDave Cornierという教育者がMOOCという言い回しを使い始めたとも言われていますがMOOCの生まれの親=George Siemensという考え方が一般的のようです。
    • その後関西学院大学の武田先生に教えていただきました「Dave CormierはGeorge Siemensの仲間で、参加者が2000人を超えたGeorgeたちの授業の意義を、Massiveなインターネット上に分散した関心を同じくする人が集まるところに見出し、MOOCと名付けた」と。また「Georgeはその後Learning Analytics and Knowledge (LAK)という国際会議を立ち上げ、こちらも大きなトレンドとなっています」と。→武田先生ありがとうございました!(先生のプロジェクト

ちなみに、このCCK08はSiemens達が所属していたUniversity of Manitobaの授業の一環として提供されたもので、同大学の単位取得につながるものだったようです。これも最近話題になっているMOOCが大学の単位にカウントされるべきか否かの議論の真っ最中であることを踏まえるとちょっと何かが違うな、と感じさせられます。(とはいえ、ここはそこまで重要な点でなかったりします)

  • このCCK08はConnectivism*という学びの理論に興味を持った教育者(又は教育者の卵の人達)を対象にしたオンラインのクラスで、数週間のコース開催中、世界中から2200人の参加者がありました。(*この学びの理論については別途説明したいのですがGeorge Siemensが自分で提唱した理論です)
  • このCCK08と似たような形式を取ったMOOCはその後いくつも提供されているのですが(ここのサイトの左側にあるものが過去のコースの一例です。他にもここに載っていないものもあります) 共通点はConnectivism理論が設計のベースにあったという点です。
  • 第一号となったCCK08はたまたま「大学の授業の一部として」「教育者向けに」実施されていたものですが、その後のコースが全てそうだったわけではありません。むしろcMOOCは教育機関ではなく「特定の分野に熱心な個人」が中心となって主催されるものが多いということが特徴的だったりします。この「個人(organizer)」が世界中の学習者がつながり合い、学びを共有し合う場を提供する事で、コースを開催するのです。

この「Connectivism理論が設計ベースとなったコース」ですが一般的な「学校の授業」を受けた人間にとっては最初はとても理解しにくいものだと思います。

なぜならばそれらのコースの前提として
  • 学習コンテンツはネットワーク上に分散して存在している
  • ブログ、wiki、ソーシャルメディアプラットフォームを通じて学習者はコンテンツやlearning community、他の学習者とつながりながら自ら自身の学びを創り、構築し、集合させていく=その行為が学びである
といったものがあるからです。

つまり決まった学習目的もなく、学習要項もなく、決まった教材もない世界。
私にも正直どんな体験になるのか想像もつきません。

こういうコースを受講しようと思う人はよほどそのコースの中心となっているテーマに興味があり、主体性と「自ら自分のための学びをつかみ取る」という強い意志がないと難しいと思います。このように、MOOCの初期の頃から続いていたこのタイプのMOOCは「やる気モリモリの人がオンラインで自ら学びを創って行く場所」であったと考えられます。

Photo by Omar Flores   



MOOCの中で分岐が起きる 

その後数年して、いわゆる最近話題になっているタイプのMOOCが登場してきたため前述のStephen DownesがConnectivism理論をベースにしてきたMOOCをcMOOC、それ以降に登場したタイプのものをxMOOCと呼ぼう、と言いました。つまり、最近メディアが取り上げているMOOCはほとんどの場合このxMOOCのことを指しているのです。

ご存知の通りxMOOCのほうが大学のブランドのインパクトが大きいですし、世界の高等教育機関達が動くということで色々な余波が高等教育業界(+職業訓練業界+大学受験業界・・)に来るぞ、ということでこんなに世の中で注目されています。

注目されているからこそ、cMOOC受講生に比べてxMOOCに流れ込んでくる受講生の背景、コミットメントや目的意識はバラバラで、それがxMOOCの難しさにつながるのですがそれについては別の時に書こうと思います。

では受講する人達のスタンス以外に具体的にcMOOCとxMOOCの違いは何だろう、というところで学びに関する理論の話が出てきます。


②cMOOCとxMOOCの違い(理論から) 

オンラインラーニングを考える時、特にMOOCを考える時、大きく分けて以下の3つを簡単に理解しておくことで色々と頭の整理が出来ると感じます。

今回はその3つが2種のMOOCにどう関係するのかを簡単に書きます。

3つの理論とは
  • Cognitive-behaviorism理論
  • Social constructivism理論
  • Connectivism理論
です。

1点目をinstructionismというくくりで捉える人もいるかもしれませんが、ほぼ同義かなと理解しています。

Connectivism理論にもSocial constructivism理論の要素が含まれている気がするので、上記の3つは完全なMECE関係ではないのですが、少なくとも1つ目と3つ目は大きく異なるものとなっており、それがxMOOCとcMOOCの大きな違いにつながっています。

例えばRodriguez (2012)が「Two Successful and Distinct Course Formats for MOOC」という論文に書いていた整理の仕方:①xMOOCs are mostly associated with cognitive-behaviourist approach with some constructivist contributions、②cMOOCs mostly based on connectivist approach

確かになるほど、と思う一方で、私が敢えてcMOOCに関して追記するとすれば「cMOOCs mostly based on connectivist approach which take social constructivist contributions for granted」というイメージ。

そうなのです、このsocial constructivismの扱いがちょっとtricky。しかもsocialがないconstructivismもあるし、ここらへんちょっと幅広い捉え方をしないといけないエリアでもあったりします。

また、上記の難しい理論の名前を用いない形でGeorge Seimensは2012年のブログで以下のように分けています。①xMOOCは"knowledge duplication"に注力したものであり、②cMOOCは"knowledge creation and generation"にフォーカスが当たっている、つまり、この2種のMOOCにおいてはそもそも知識というものをどう捉えるか(外から吸収するものなのか、自分の中で創り上げて行くものなのか)の違いも存在しているという話。

そして、インターネットの影響力も無視できません

  • xMOOCはインターネットがない時代から作られて来た授業(教える側→知識→学ぶ側)という流れにインターネットによって可能になった各種工夫を凝らして(動画の活用、受講生のデータ収集、効率的な相互フィードバックの仕組み、ソーシャル機能、などなど)みたものなので背景にある学びの理論はインターネットがなかった時代から画期的に新しいかというとそうではありません。(もちろん進化しようとはしていますが)
  • 一方のcMOOCは「あるテーマに関して興味を持った学習者が世界中からネット上で集まり、互いにブログやWikiの作成と共有を通じて学びを深めていく」形の学びなので、その過程ではネットワーク上にあるリソース(ネット上のみならずオフラインでも手に入るリソース全て)につながることが不可欠となります。この学びの形態がインターネット普及の前(具体的に言うとブロードバンド普及前)に支持を得られたか、というとちょっと怪しいです。

インターネット普及前の世界で分散している知識を「ネットワーク上」で集めに行こうとしても図書館の中、知識人へのインタビュー、現場視察、・・・などどうしても労力投資対効果的に実現しにくい学びの在り方であったと思います。

これがインターネットの登場により飛躍的にrichなものへアクセスすることが容易になった。すると新しい学びの在り方を可能にするようになった・・・ということでインターネットの普及という画期的な環境変化があったからこその新しい学びの在り方なのだと思います。

と、いかにxMOOCとcMOOCが違うものかを書き続けてきましたが、実は世の中の多くの人はcMOOCなんて知らなくてもいいのかもしれませんね。知らなくても全然良いと思います。

ただ、私個人としては典型的なxMOOC、知識伝達型のMOOCしか知らないのはもったいないなあという気持ちと、とMOOCの可能性を頭ごなしに否定する人達はそういう形でないMOOCの在り方も今模索されているのだということを知ってほしいな、と思った気持ちがあってこのエントリーで敢えて書いてみました。

実際典型的なxMOOCからsocial constructivism型の要素をもっともっといれようと模索しているものもでてきていますし。「MOOC」と一言でいっても様々なフォーマットのものがどんどん増えてくると感じます。


最後にSiemensが上記のブログに書いていて私も同感!と思ったフレーズを引用します。

「I don’t know if MOOCs will be transformative in higher education. I’m not sure that they’ll be half as disruptive as some claim. They are, however, significant in that they are a large public experiment exploring the impact of the internet on education. Even if the current generation of MOOCs spectacularly crash and fade into oblivion, the legacy of top tier university research and growing public awareness of online learning will be dramatic.」

「The value of MOOCs may not be the MOOCs themselves, but rather the plethora of new innovations and added services that are developed when MOOCs are treated as a platform」

 

from Phil Hill's blog entry: July 2012
http://mfeldstein.com/four-barriers-that-moocs-must-overcome-to-become-sustainable-model/

ちなみにとあるテーマを決めてブログにまとめる作業って自分にとってはconnectivism理論に沿った学びの機会ですね。これで読んだどなたから「ここは違うよ」とか「ここは私はこう思う」と指摘をいただけたりするとよりconnectivismをベースにした学びの場になったりするのかな、と思ったりしています。



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