チームを育てるマネージャー

最近ちょっと思うことがあり、備忘のため記録しておこうと思います。

プレーヤー出身のマネージャーの課題

以前日本で働いていたときに、企業でのリーダー育成の文脈で「プレーヤーとして前線で価値創造に奮闘していた人が、マネージャーに昇格した時に、結局自分で全てやってしまおうとして結局下についている人やチームの他の人をEmpowerする機会を奪っている」という話を聞くことがありました。(その方が早いから、その方が提供する価値の質が短期的には高いと思っているから、など理由は色々)

自分は当時、そういう学びの場を講師の方やコンサル先輩の方々と一緒にデザインしていた立場にいたわけですが、この話、頭で理解していたような気がしても、どこか遠い世界の話に感じていた部分が実はありました。

「確かにプレーヤーとしてずっと働いていた自分の目線からみても、人に任せるよりも、自分が直接引き受けてお客さん対応とかしちゃうかも・・」くらいに思っていたり。

きっと、自分自身がそれまで比較的上司に恵まれた社会人人生を送っていたためか(=自分に成長機会をドサドサと与えてくれる上司に囲まれ)そもそも自分にマネージャー経験がなかったためか、と今となっては思います。

身近にいるロールモデル

ところが最近「三人+契約パートタイムのリモートの仲間一人」という私達のチームのリーダーを間近に見ながら、ちょっと分かったことがあります。

彼女のマネージャーとしての強みはチームメンバーの力を120%引き出す「触媒(カタライザー)」としてのパフォーマンス(と私は理解)。

やろうとしていることの大きさに比べてチームが小さすぎるからか、ある程度組織構造が安定している会社の他の部隊(会社は2001年創業)に比べて社内ベンチャ-的な要素がある部隊だからか(私のいるチームは2009年にその今のマネージャーが一人ではじめたもの。2012年にようやく二人目を追加、私は2014年から)・・・とにかく仕事をふるのが上手いのです。

しかもあまり内容が詰まっていない状態でとりあえずやってみて、という感じなので(ほぼWHY部分のみ)私達は枠組みからつくっていかなくてはいけないし、もちろん中身も全部やる(WHAT, WHERE, HOW, 社内の誰を巻き込むべきかのWHOも)。

これはおそらく彼女も意識しながらやっている成長機会の提供。

彼女からの学び

でも、最近彼女と一緒に仕事をする時間が増えるにつれ「これ、無意識でやっているんじゃないかな」というタイプの成長機会の提供もしているかも、と考え始めるようにもなりました。

そして、それを可能にしているのは「問いを立て、意見に耳を傾ける」彼女のスタイルと、「Vulnerability(脆さ/弱み)をオープンにする」ことを厭わない彼女の性格。(私の個人的な仮説)

彼女は質問をするのが上手い。何かクリアでない点がチームミーティングで出てくると必ずそれを捉え、理解するまで何度も確認する。ふとした意見やコメントの発言者の発言の背景を探ろうとする。アイディアのかけらが出てくると「Tell me more」というフレーズを口にする。意見やメッセージを伝える量より、入ってくる意見を吸い上げる量が多いほうが重要、とはよく聞く話だけれど、彼女はそれを自然に実行する。話す事が多くなる傾向のある私はいつもそんな彼女から学ばされています。

そして、「脆さ/弱み」の共有。彼女のこれは他のマネージャーと比べても少しユニーク。彼女は完璧を求めない。つねにWork in progress的な状態でいることがOKと考えている人間で、どんな状態でも「改善につながるアイディア募集中」の看板をだしているような人。

また「仕事のプロセスや結果」と「それを体現している個人の人間性」を基本的に切り離して考えることができる人。「Don't take it personal」と良いながら他人のアイディアや仕事のプロセスや結果にグサグサ批判的&建設的な意見を言うし、おそらく自分に対して矢が向いたときもそういう捉え方をする人なのだと思う。

チームの誰かがステークホルダーの相手(顧客、パートナー、社内のメンバー、などなど)とのコミュニケーション不足であるのではとキャッチしたら「Why not talk to them」と即座に言う。言われたこっちは確かに何故そうしなかったのだろう(例えば変な遠慮をしていたり、タイミングを見計らっていたり、といった理由は彼女のその問いに対して不十分)と思わざるを得ない感じ。自分がPersonalに捉えない人だから世界中の他の人も捉えない、捉えるべきでないという前提が見え隠れする。結構強い。

チームとしての達成点を高めるものならば、途中自分の足らざる部分に他のメンバーが飛び込んで来て違うやりかたで進めても、彼女のアイディアに私や他のメンバーが賛同しなくても全く気にしない(ように少なくとも見える)。むしろ、自分の苦手なところがチームの他のメンバーの強みで補われるということに喜びすら感じているようにも見えたりする。

最初は図々しくも「彼女の苦手なここは私がやるしかない」と相手を手伝っていた気分になっていた私ですが最近は、実は彼女が無意識に提供している成長機会のプールで泳がせてもらっているだけなのではとも考えるようになりました。笑。

先日のエントリ-で触れた"A paradoxical conception of group dynamics." (Smith & Berg、 1987) の有名な7つの矛盾や、それに関連して私の教授がまとめて教えてくれたグループとして大切な4つのTension(二つの相反する考え方が共存する緊張状態)を思い出したりもしました。

  1. Knowing - create shared certainty and maintain doubt:グループ全体として知っていることを共有しつつ疑問を持ち続けるというバランスの重要性(後者ができないと学び続けることができない)
  2. Trusting - demonstrate competencies and disclose vulnerabilities グループに対して自分の強みや貢献を提示しつつも弱みを開示するというバランスの重要性(後者ができないと学び合うことができない)
  3. Belonging - create a collective identity and maintain individuality グループ全体でアイディンティを確立させつつも 個人個人の「らしさ」も維持するというバランスの重要性(前者が強すぎるとグループシンク(☆)の危険もはらむことに、後者が強すぎるとグループとしてのまとまりが生まれない)
  4. Leading - influence through vertical and horizon power タテと横のリーダーシップのバランスの重要性(leaderとleadershipというものは異なるものである)Leadershipは"Social interaction of influence"であり人と人の関わり合いの中で生まれる影響力のこと。どのような年齢、立場にある人も発揮し得るものであり、一人のみが発揮するものでなく、共有されるものである。
(☆)グループシンク(集団浅慮):社会心理学者が1972年に提唱した概念ですが大学院でこの考え方に最初に触れたときは感動しました。そうそう、といったように。いつの時代でも、どこの環境にいても、気をつけたい話です。

これらを改めて見て、私のマネージャーはチーム内に上記の4つのTensionを創り、維持しておくことが上手い上司だな、と感じています。

私より3歳上のワーキングマザーのロールモデル。
・・・近くにそういう人が居る環境に感謝です。



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