授業メモ: クリステンセン教授のDisrupting College〜高等教育の質の再定義

今日はT-561 Transforming Education through Emerging Technologiesの10月22日の授業向けの予習内容。

読み物はかの有名なクリステンセン教授による'Disrupting College: How Disruptive Innovation Can Deliver Qualityand Affordability to Postsecondary Education' (Feb 2011) - Innosight Institute
Clayton M. Christensen, Michael B. Horn, Louis Caldera, Louis Soaresの一節。

本の目次だけでもなんとなくメッセージが伝わって来る内容。
  • Contents(目次)
    •  The shift in higher education
    •  The process of disruptive innovation
    • Disruptive innovation in higher education
    • What is a business model?
    • Action for policymakers and traditional universities
本文より、高等教育を取り巻く昨今の時代背景をよく表しているフレーズ
 ''The institutions are now increasingly beset by financial difficulties...the further looming state budget crisis spell difficult times for many colleges and universities. And there is a growing acknowledgement that many American universities' prestige came not from being the best of educating, but from being the best at research and from being selective and accepting the best and brightest...'' (P1)
要は、財政的に厳しい環境+大学の付加価値は「そこで起きる有益な学び」そのものではなく研究であったり「優秀」とされている人たちを集める力なんではないか、という認識が広まっている、という現実。

本当にそれでいいのか、学びを届ける機関の役割とは!?という主張の元に、
今higher educationに求められていることは
  • (今までより)多くの人にhigher educationを届けることに注力=improve access
  • (これからは)もっとhigh qualityのhigher educationを多くの人に届けることに注力=improve access to quality
すべきじゃないのか、という話。

クリステンセンは「大学は従来3つの異なる提供価値 ① Knowledge creation (research), ②Knowledge proliferation and learning (teaching),  ③ Preparation for life and careersを持っていた。 今大学の多くははsolution shopsとして、value-adding process businessとして、facilitated user networksとして、など様々な目的が絡み合う複雑な組織となってしまった」と書かれている。例えば今日の代表的な州立大学は「consulting from McKinsey+Whirlpool's manufacturing operations+Northwestern Mutual Life Insurance Companyが合体したようなもの」とも。各大学はしっかりと自分達の提供価値を意識してどこに注力し、質を上げることを考え、実現することが大切なのでは。業界全体として質の再定義が必要なのでは、と。

クリステンセンの破壊的イノベーションのおさらい

ちなみに、クリステンセン教授は破壊的イノベーションという概念をビジネスの世界にもたらした事で有名ですが、その時に彼が提唱した「破壊的イノベーション」の登場の仕方は以下のイメージ。
  • 一部の人に対してサービスを提供(そのサービスは複雑で高額、「壁」が存在)していた業界において、
  ↓↓

  • 富や能力関わず、より多くの人に対して「シンプルで、手頃で、便利なもの」が提供されていく業界へ変容

こうなった時に「破壊的イノベーション」が取り入れられた結果「業界が変容した」とし、この変容の過程において「質」の再定義であるとか、プロセス・ゴール・ゴールへの道筋がどこで生まれるかなどの従来の「普通」が再定義されていく、と。

変容の過程の初期段階で業界内では変化に向けた新しい動きに対して''disparaged''な(批判的な)声が多く出て来ることがあるが、時とともにそれは変わっていき、結果として以前の手法では解決できなかった複雑な課題解決につながる事を可能にすることが多い、と。


高等教育業界へ当てはめようとすると

そんな考え方をもつクリステンセン教授ですが、要は上記のような時代背景を踏まえ、高等教育でも破壊的イノベーションをきっかけとした業界変容が起きるのでは、起きるために必要なこと、と言った事をこの本では書いています。

例えば高等教育で破壊的イノベーションが起こるためのEnabler要素として彼があげているのは二つ
  1. Technology enabler (Online learningのように):※従来のサービスが届いていなかったグループ(nonconsumption)へ届けることが可能に
  2. Business model innovation:旧型のビジネスモデルに組み込んでもtransformationは起きないから
この二つの活用が破壊的イノベーションを現実なものにする確率上昇につながる、と。特にLearning and Teachingに改めてフォーカスする際には1を利活用することが有効とも。

そのうえでそのような業界全体の変容をサポートするためにPolicy Makerが出来る事(抜粋)として提言していたことは、
  • Disruptive Innovationの実現に対する障壁を出来る限り除くこと
  • 教育機関が「seat time/credit hours/student-faculty ratio」などで評価されることを防ぐこと
  • 教育の成果の評価方法を「学位取得」に集中しすぎないこと
  • 高等教育の質の向上&コスト低減に向けて融資をすること
  • 研究機関の重要性を引き続き認識すること
既存のHigher Education Insititutionが出来る事として提言していたのは(抜粋)
  • 提供価値&ビジネスモデルを見直し、適しているものに調整すること
  • 破壊的イノベーションを自ら生み出し、牽引していくこと
  • Online Learningをsustaining innovationとして捉えること

でした。

※上記はアメリカを前提として書かれたものです※


私たちの教授の意見、クラスメートの意見

ビジネスで機能している概念を直接教育へ応用することに対し、クラスでは見方が色々別れていました。クリステンセンはK-12にもこの考えが応用できるという姿勢である一方で、私の教授はこれに異議を唱えていた。K-12とHigher Educationだと状況が全然異なると。

またHigher Educationにおいても他のクラスメートの意見を聞いていると多少の無理をしてでもお金を払って自分が高品質だと信じるものに投資する、という考え方もまだ根強く、教育の世界はビジネスの世界よりも時間がかかりそうな気が個人的にもしている。これがクリステンセンが言っていたdisparagedってやつなのかもしれない。

あと「研究機関として」「学びを届ける機関として」「社会への準備を促すコミュニティとして」の3つの機能を持っていることが複雑だからどれかにフォーカスすべき、という点にも個人的にはちょっと違和感を感じた。たしかに2点目が相対的におろそかになっているところはしっかりと補強が必要だと思うけど、複雑なエコシステムを形成していくことも重要な存在意義ではないかしら、と思ったり。 

まだまだ理解していない気がするのでもう一度読み返しが必要な気がする一冊。