シンガポールの徹底された国家戦略(教育)

先週の木曜日、キャンパスで開催されていた以下のイベントに参加。参加者は30人弱だっただろうか。正直もっともっとたくさんの人が聞けたらよかったのに、と思うくらい素晴らしいプレゼンだったので備忘メモ。

イベントの案内文:
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Singapore’s Education System in the 21st Century

Is Singapore's education really all about TIMMS and PISA?  
We invite you to an intimate sharing session! Hear from our panel of education policy analysts and practitioners key strategies on:
- National School Improvement Journey
- Enhancement of Teacher Quality
- Education for the 21st century
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もともと金融にいたときから興味を持っていた国、シンガポール。今の教育学部に留学中のシンガポール人も出会った人皆優秀で、謙虚で、志高く、本当に素敵な人が多い。そんな国の教育政策について聞ける貴重な機会、と思って参加した。

ちなみに昨年9月のEconomist誌の記事には「Tiger mothers in Singapore - Losing her stripes?」といったものもあり、従来の同国の教育イメージであった「詰め込み型の教育、理系に強い教育」から少し変わって来たのかな、くらいの印象を持った状態でこのイベントに参加。

イベントは正直想定以上の内容でした。この国は本当にすごい。

プレゼン内容は「Education System」レベルでどういう仕組みが回っているかの話だったので、現場にどのような形で落とし込まれているかを判断することはまだできていないのだけれども、そもそも仕組みだけでも色々すごいなぁと思わされた内容だった。

システムとしてここまで徹底されているという事実と発表者全員が(全て教育学部に留学中のシンガポール生、6人ほど)自分の言葉でそれぞれ丁寧に自国の仕組みを話している時の様子そのものに単純に衝撃を受けた自分。

この国は本気で中長期の視点を持ちながら人を育てている、そう感じたイベントだった。

国家の資源としての人財育成にかける真剣度
環境変化、ニーズに合わせてシステムを変化させているスピード感

一緒ににセミナーに出席していたレバノン人の友人も衝撃を受けていてセミナー終了後、シンガポール人で発表者の一人であった友人をつかまえてしばらく興奮状態の我々。。そんな二人に囲まれても冷静さ謙虚さを保ちつづける素敵なシンガポール人の友人。

いやはや貴重な学びの場となったイベントだった・・・。


以上感想
以下はメモ

そもそもの教育に対する信念

A key role of education is to support our economy while also fulfilling the aspirations of our children (prepare multiple paths for children because they are all individually different)

一字一句正しいかは定かではないけれど、このような主旨の内容のシェアがあり。

国としての投資額

(※他国比がないのでこの情報だけではあまり判断できず)
・2010年に74億ドル、GDPの3.5%、同国では防衛費の次に大きい
・3万人以上の先生がいて、その数は上昇中

いくつかの衝撃

''The Singapore Education Journey''というパンフ(シンガポールにおける文科省のようなところの) にインタラクティブなグラフィックスがあり、同国の幼少期からの教育pathの各種がまとめられている。

以下の図に表される、シンガポールの小学生以上の"journey "の色々。
なんと多様な道筋があるのだろう、とまずそこで衝撃①。




そしてこの説明の時にさらりと「primary educationは大体7歳から始まります。我が国ではbilingualになることは必須なのでここで語学を習得します」という発言が。衝撃②。(シンガポール人が英語を皆習得していたのは知っていたけれどもbilingual is compulsaryという強制力のある単語がさらりと使われていたことに衝撃)

さらに引き続きさらりと「secondary educationは13歳前後から始まる人もいますが人によります」という柔軟性に関するコメントに衝撃③
 
「特に最近はStudent centered, value-centered educationへ移行している」
「Every chid with the opportunity to develop holistically」
「Teacher quality also needs to adapt for 21st-century 」といった最近の世界の流れをごく自然に口にしプレゼンをすすめるシンガポール人。メモを取るのが必死な私。

School Improvement Journeyの歴史

  • 1997年からCluster Systemといって11-15校の学校が一つのクラスターとしてまとめられ、統括されるシステムを導入したのだとか。(同国には320を超える学校が現在ある)
  • 各クラスターへの権限委譲が進み、変化する教育ニーズへの対応スピードが早まったとのこと。(それまでは学校の管理は中央政権で集約されていたらしい)
  • また詳細は聞けなかったけれどクラスター制はノウハウ共有やコラボレーションのために上手く働いているらしい
  • また各クラスターが毎年改善を続けるインセンティブとしてself-appraisal systemというものがあるらしい。自己申告制のようだけれども改善のプロセスとその結果を報告するらしい。また6年に1度は外部の審査(とはいえ評価をするというより変化の推移を客観的に捉えるためのものらしく、圧迫系ではないらしい)

Enhancing Teacher Qualityのための仕組み

  • 「Quality of education cannot exceed the quality of the teacher and the principal」
  • 重要なのはRecruit the best talent, the top tier or graduate
  • そのためにある「砂時計モデル」
  • 「砂時計モデル」上から
    • magnet(優秀な人を惹き付ける)
    • screen(選択する)
    • training(育成する)[ここで砂時計の一番細いところになる]
    • mentor(指導する)
    • targeted PD (professional development)(ピンポイントで育成する、成長機会を提供する)
    • career development(将来の道、可能性を広げてあげる)
  • 同国では教師には十分な報酬と約束された将来の可能性が提供されるらしくGROWパッケージ(growth, recognition, opportunity, well-being)と呼ばれるものがあるらしい。
    • Growth:修士などの高等教育を受ける機会サポートがあったり、
    • Opportunity:リーダーポジションへの道が開かれたりと手厚い
  • 教師の後のキャリアパスにもteaching trackといって校長まで現場で上がっていくパスとleadership trackといってクラスターのトップになったり政策立案に関わるポジションにつくパスと研究職などのspecialist trackがあるとのこと
  • Screenでは応募者の大体2割が採用され
  • Trainでは中央政府が内容を管理している
  • そこでは以下の3つのV(V1=Value)(V2=Identity, Ethos)(V3= (Responsibility to Service/Community)とSkillsとContent Knowledgeがインプットされる
  • Mentorフェーズの最初の2年間には以下の5つのコアモジュールを修了
  1. Reflective practice,
  2. Basic counseling
  3. Classroom management
  4. Relating well with parents
  5. Assessment and question settingを学ぶということ(特にQuestion Settingは昨今特に重要なのだとか)
  • PDに関してはAcademy of Singaporeについての紹介があり教師になる人に対する期待として以下の人間になってほしいのだ、という説明が。
    • Ethical Educator
    • Competent Professional
    • Collaborative Learner
    • Transformation Leader
    • Community Builder
この段階で「シンガポールの教師経験者って世界どこでも転職先が見つかるのでは?」と思い始める私。メモは必死に取り続ける。

Education for the 21st centuryに対する考え方

  • これからの重要な社会変化のドライバーは
    • Globalization
    • Changing demographic
    • Technological advancement
  • 特に育成ニーズが高いのが
    • Civic literacy/global awareness/cross-cultural skills
    • Critical inventive thinking
    • Information and communication skill
  • 冒頭にも紹介のあった「Student-centric, value-based education」という概念
    • ここでいうvalueについては特に以下の要素を意識しているとのこと
      • Personal(ConfidenceやRespect等を含む)
      • Moral(Social responsibility等を含む)
      • Citizenship(国全体としてResilient to adversity/crisisを高める必要があるため)
  • 特に個人のあるべき姿は
    • Self-directed learner
    • Active contributor
    • Confident person
  • 最近はSelf-directed learningとcollaborative learningのスキル、それを学びに組み込むプロセスに注目している、とのこと

ICTの利活用について

  • 一番最初にICTのマスタープランが作成されたのが1997年
  • 環境変化を踏まえアップデートしたのが2003年
  • そのあと数年以内にICTの可能性が想定していた以上のものだと気付いた、ICTというツールを提供し、指導するのではなく子供達をself-directed learnerにする考え方を導入するべきと気付く@2009年
  • その流れを踏まえ設立が進んだフューチャースクールは現在シンガポールに6校ある(
 
最後にまとめとして「同国の教育システムの成功の秘訣」として以下が共有されました
  • Belief in centrality of education for students and the nation
  • Alignment between policy and practice
  • Talented teachers and school leaders
  • Ambitious standards and assessments
  • Culture of seeking continuous improvement
ケーススタディに出てきそうです、この国の教育システムのあり方。
いやはや、本当に学ぶところが多すぎると思いました。

Photo by Lily Banse on Unsplash



【2013年12月5】
実際に現場視察されていた方による詳細の日本語の記事
「シンガポールのトップ高を視察してきました(2013年11月30日)」