Stay-at-home motherが増えているというけれど

アメリカの話です。

今週のエコノミスト誌にあった記事の一つが「The return of the stay-at-home mother」でした。日本語にすると「戻ってきた、専業主婦達」というニュアンス。記事の後半は米国の国内政治問題になるので少しずれていくのですが、去年のシェリル・サンドバーグの本 Lean In の後、アメリカでも色々話題になっていたテーマなので、この機会にメモ。

エコノミストの記事で使われている最初のグラフは1960年代後半から現時点の「Stay-at-home mother」比率の推移(18歳未満の子どものいる女性を母体にした比率)を示したもの。そのカーブをみていると「戻ってきた!」というよりは、「下げ止まった」または「ボトムからじわりと回復基調」という印象なのですが、その数値は現時点で3割程度。

グラフは60年代後半の5割程度の数値から始まっていて、90年代後半の23%が最低水準。確かにそれに比べたらじわりと戻ってきているようです。

ただ「stay-at-home mother」の定義は記事では明確にされていなく、家にいながらフリーランスで仕事をしている人、とか、週三回外で働いている人、とか、企業じゃなくても地元のボランティアなどでがっつり活動している人とか・・・・そういう比率はどこに含まれているのだろう、モヤモヤが残りました。

タイトルにとびつく前に

エコノミスト誌の良い所。データを解釈するために必要な最低限の情報もくれるところ。以下の点を意識した上でグラフの解釈をする必要があります。

まずは人口動態の変化による影響。近年のアメリカの人口増の要因である移民達。彼らはアメリカ人より「専業主婦でいる女性」の比率が多いとか。そういう彼らがアメリカの中で占める割合が増えていたら、そりゃ、全体のデータに影響を与えますね。これ注意ポイント一つ目。

そして次にあるのが労働市場の環境変化による影響。90年代後半は今より「働きたい人が職を見つけられる環境であった」と。今はむしろ働きたくても働けない人が増えている。そういった現実。これはおそらくアメリカ外の他国にも当てはまる点。

この記事の二つ目のグラフに女性の学歴の違いと「Stay-at-home」の比率が横並びで表示されていますが、学士号未満の学歴を持っている女性における「Stay-at-home」比率は学歴の高さに半比例しています。働きたいけれども労働市場でQualifyされない、職を見つけにくい、といったハードルの存在。そういうハードルを前にした女性は「Stay-at-home」になる可能性は学士号以上の女性より高いと考えられます。

その道を「選択」できる女性は少数派

そして上記二つの要因を除いた後の残りが「選択肢を持つ女性達の志向がシフトしている」という可能性と考えられます。「Stay-at-homeな母達」の4人に1人は学士号以上を持っているという事実もあるらしく、つまり、彼女達は選り好みさえしなければ何らかの仕事にはつけるはずの人達。

実際こういう人達の比率が経年で継続的に高まっているのならば「アメリカ国内の女性の間で専業主婦志向が高まっている」が言えるとは思います。ただ、今回のエコノミストの記事ではこの点については判断することができません。

それより印象的だったのは元々こういう選択肢を持つ女性達は全体に占める割合が相対的に低いということ・・エコノミスト誌の記事によると「affluent(裕福な)stay-at-home mother」(世帯収入が7.5万ドル以上の家庭、全米で37万人、「Stay-at-home」の状態にいる女性の5%)はそんなに多くない。

そうすると2013年のLean Inの本が出た前後で話題になった以下の記事とかもそういったごくわずかな対象層の女性達のことを指しているのだろうな、と思わざるを得ません。
Rise of the happy housewife: How a new wave of feminists are giving up their careers to stay at home because they WANT to
The Retro Wife: Feminists who say they’re having it all—by choosing to stay home.

こういう記事を見ても「自分に関係ないスタイルだ」と思った欧米の女性だって少なからずいたはずです。


色々な人の視点、自分の視点、多様な社会

それにしても、こういうテーマの各種エントリ-って自分の価値観がどういうところにあるかの鑑として使えるなぁ、と感じます。テーマが自分の生き方や目指す姿にとても深く関わってくるから、読みながら色々反応してしまう、自分の心と頭の中の声。それらに意識を向けてみると、自分の考え方がどういうところに位置しているか、が分かったり。もちろん書かれている人達の思考やその方々を取り巻く環境/過去の経験なども色々あるのだなぁ、という想像力を鍛える訓練にもあります。

実際このテーマ絡みで読んだことがあって色々感じることのあった以下の3つの記事を。
「ハーバード卒の専業主婦って何してるの?に答えてみた」(2014年2月)
新しい生き方を目指す『ハウスワイフ2・0』の目新しくなさ(2014年3月)

共感するところ、心強いな、と感じるところ、違和感を覚えるところ、異論を唱えたいところ。・・色々あって疲れもしますが、多様な視点に触れるのは自分を知る上で良い体験。

と同時に、これらエントリ-から遠い世界の話にフォーカスを当てたクローズアップ現代の「若年女性の貧困」特集や「復興政策や福祉政策からこぼれ落ちる被災地のシングルマザーたち 悪化する「貧困」と「孤独」」に出て来たような話も思い出されます。

アメリカの経済格差とは比較になりませんが、そもそもStay-at-home motherになろうかどうかという選択肢を持つという状況でない女性も日本でも増えていると感じることが最近増えて来ているような気がしています。

アメリカのデータを取り扱った記事を解釈するときに人口動態や経済環境/社会的背景を意識しなくてはいけなかったように、日本で起きていることを理解するするときも、様々な立場の人の視点に立って、多角的に捉えていきたいものだと思います。