元受刑者の方々と起業と「ボランティア」と

元受刑者の方々を対象にしたNPOで「ボランティア」

今週の火曜日は全社一斉のコミュニティサービスデー。世界各地8カ所にある各拠点がそれぞれ選択したアクティビティに取り組んだ。90人ちょっとの組織の中でも一番大きな拠点のニューヨーク。30人ほどの我々は事前に選ばれた3つの活動に振り分けられた。

私が参加することになったのはDefy VenturesというNPOとの活動。元受刑者の方々が起業家になるまでの道のりをサポートするNPO。2010年に同NPOを創立したCatherineは元VC(ベンチャ-キャピタル)/PE(プライベートエクイティ)業界出身者。2004年にテキサスの刑務所を訪問した時の経験が転機のきっかけだったらしい(参照:Defy Ventures > Founding Story

Defy Venturesに通っている元受刑者の方々は昼間は仕事をしているのでプチ夜間ビジネススクールのようなイメージだろうか。とはいっても安定した再就職先につくのは元受刑者の方々にとって楽ではないので昼間の仕事も比較的ハードでとても忙しい。Defy Venturesに「入学」している人達はEIT - Entrepreneurs-in-trainingと呼ばれてる。Defy Ventureのワークショップを受け、コーチングを受け、たまに、今回の私達のような外部組織に属しているビジネスパーソンとつながる機会を得、そこからもインプットを得る。「ビジネスコンペの審査員やメンター、コーチ」といった形で様々な業界の様々な職位の人がDefy Venturesにボランティアとして関わっているもよう。

今回の活動は11人の現役のEIT+我々社員15人ほどで、1vs1でフィードバックセッションを回す、といったものだった。

事前に渡されていた資料には11人全員が提出した彼らのビジネスアイディア(かなり初期のものから既に事業化されているものまで様々)や彼らのざっくりとした職業経験/強み、受刑期間とその理由が記載されていた。

ちなみに少し調べてみたところ、アメリカには240万人の受刑者が刑務所に収監されているらしい。日本は約6万人。司法制度の厳罰化が進んだこともあるらしいけれど、結構多い。実際11人のうち殺人罪やレイプで捕まっていた人や横領/クレジットカードの偽造など様々。

この体験から学んだこと

今まで「元受刑者」という人達に出会うことがなかった自分。前日にビジネスアイディアを読み込んでいても、正直「受刑期間とその理由」の欄以外は普段社会起業家向けのオンラインコース上でよく見る新規事業計画書またはスタートアップのビジネスピッチ資料だな、という感じだった。とはいえ先入観がまったくなかったと言ったら嘘になる。殺人犯とかレイプ犯とか・・怖い感じなのかな、とか。

以前証券会社で働いていた時、そこでも年に一回コミュニティサービスデーというのがあってボランティア活動に一日費やす事が義務づけられていた。確かホームレスへの方々への炊き込み活動、児童養護施設でのクリスマスイベント活動、保育園の壁塗り手伝い、シニアホームセンターへの訪問というようなことを経験した。

普段関わることの少ない人達と触れるとき、まず得られるのは彼らに関する一次情報。事前の先入観が修整されたり排除され、新しい情報に置き換えられる。今回の人達もそうだった。早い段階で自分の抱いていた先入観は目の前の人達と関わるうちに遠くのものになっていった。逆にもっとリアルな情報が入ってくる。

育って来た地域では必ず皆が一度は逮捕されたり強盗にあう/自分が強盗するような場所だったという人。(起業後頼りにできるような)「家族や友達がいない」とつぶやいていた人。一時期鬱病を患ったと告白する人。「これ(起業)しかないんですよ、もう自分には、だから頑張らないと」というフレーズは複数のEITの方々が口にした。彼らのにこやかでハツラツとした表情の裏には自分が想像できないくらいの苦労があったのだろうとも思わされた。

どこにも「怖い人」なんていなかった。あそこに来ていた人には昔から大切にしている価値観があり、誇りがあり、少しづつ見えて来た希望や夢があった。前にも進みたいという意欲があった。Acumenで「貧困層」という文脈で考えることの多いこういったことが自分の頭の中をグルグルとめぐっていた。

「個別のやりとりの間に生まれるものは、相手が元受刑者とか関係なく、普段と変わらない」ということも今回の気付きの一つ。

相手に対する興味と敬意、相手のワクワクすることと自分の経験/知識/ネットワークが交差したときの興奮、相手のワクワクが増大するところを見せてもらう時に生まれる喜び・・・これ、相手が誰でも同じこと。

ちょうどその前日に日本人の大学4年生(現在香港に留学中)と会って就活相談ディナーみたいな時間を過ごしたばかり。彼と私のやりとりと、Defy Venturesで出会ったこの人達とのやりとりと、大きな違いはなかった。

全員の活動が終わった後に社員でリフレクションタイム。

そんな中同僚の一人がいっていた。「必ずしも世の中の人全てが自分や自分の周りの人が与えられてきたモノ/出会い/アイディアに触れてきた訳じゃない。だから情報を共有するだけ(または少しの時間をつくるだけ)でもその相手にとっては何らかのきっかけになることもある」

さらに自分が思うのは「ちょっとだけの関わり合い、その過程で相手にもたくさんのことを教えてもらう」という点。自分が何を知らないで過ごしてきていたか、理解したつもりになっていたことがいかに自分のなかで「ぼんやりとしたもの」だったか。今回は自分が想像していなかった以上相手に喜ばれて嬉しかったのも事実なのだけれど、私こそ彼らに心から感謝してる。

当日少し身体がだるくてお休みしちゃおっかな、と一瞬思ったけどしなくて良かった。

Defy Ventures・・・良い取り組みだなぁ。今回やりとりが続いている二人はその後のベンチャ-がどうなっていくのかフォローしていきたい。