アメリカでの医療保険 - 現地で働く際の5つのアドバイス

たまに日本が恋しくなる時、それは温かいお風呂のことを考える時だったり、品揃えが充実しているコンビニを思い出す時、たっぷりと具が乗った海鮮丼を想像する時だったり、綺麗な公共施設と目の前にあるNYの現実を比較するときだったり、色々。でも「日本だったら絶対こんな酷いことにはなっていない」と心の底から感じるのは、アメリカで医療保険関連の壁にぶつかる時。
  
現地の同僚には「しょうがないわよ、国民の私たちにとっても意味不明だから、笑」とは言われるものの、実際に想定外出費が重なるとそこまで笑っていられなくなる。自分が一体何を理解できていないのかすらも分からない状態は本当に切なく、無力さでいっぱいになる。NYにいる、パキスタン人の同僚とはよく、「アメリカでの医療保険」にまつわる事件を体験するたびに「one of the things that frustrates me the most about the US health system is that you HAVE to navigate it when you're sick」とつぶやいたりしている。

ヘンテコな仕組みのせいでお金がいくらあっても足りない気がするし、お金の心配をするがために必要なケアを積極的に求めに行くことも躊躇するようなマインドセットにすら気づいたらなっている。そもそも専門医に診てもらおうかな、と気軽に思ってから予約入れるまでも一般ルートだと1週間以上かかるのもよくある話。

そして、個人の選択の自由を尊重するためか、一人一人がバラバラの医療保険の組み合わせを持っていることが多く、そのせいか、所属している組織の人事部などのサポート機能も限界的で、結局はヘルプコールセンターたらい回しになるのが関の山。

自分の身(とお財布)は自分しか守れる人がいない。自分一人で色々なところに電話をして問い合わせをして情報確認するしかない・・・この医療面に置ける「自助努力・自業自得」に慣れるのに数年はかかった。

アメリカの医療制度の酷さ

みんなどうしているんだろう、と検索してみたら、NAVERまとめがやはりちゃんとあった。「 【アメリカ】テロよりひどい! 知られざる最悪の医療制度の実態
  • 「保険料を払っていても高額の医療費」
  • 「病気になって医療を受ける時には、自分で医師や医療施設を選ぶことができず、医療保険会社が指定した医師にかからなければならない。」
流石に過激な事例がまとめには含められているけれど、私の体験だけでも以下のような「アメリカ医療制度あるある」エピソードが。
  •  ハーバード大学院留学中に中耳炎になって耳のお薬を大学病院に行ってもらったら80ドルしてびっくりした(学生で留学する際は結構手厚い保険への加入が義務付けられているのでこれはもちろん保険適応後)
  • ケニアに出張に行く前に 黄熱症の予防注射が必須だったので、注射をしたところ(3月)なぜか9月にその時の請求がきたら金額が800ドルでびっくりした(これはさらにびっくりすることにその後交渉したら120ドルに下がった、かつ出張に関するコストだったので会社に払ってもらった)
  • 歯科に定期検診行こうと思って検索した医者に予約の電話を入れたら、保険会社に電話してください、と言われ、保険会社に電話、保険会社から医者に「この人は保険適応者です」と連絡、その上予約の電話をしたら3週間後の日程を指定された
5年経っても、まだまだ「ガーン」や「ヒヤリ」「ハッと」が多く、一時帰国の際に色々と検査とかはまとめてきている人間ですが、いつでも日本の医療サービスに依存し続けてもダメだと思い、一旦ここでの学びをまとめました。

日本企業からの駐在員派遣という立場の人にはあまり関係ないとは思いますが、現地採用でアメリカで働いている人の参考になれば。

失敗からの学びとアドバイスの共有

⑴ 所属組織の健康保険が適応されていれば (*) One Medical Groupの会員になろう

これで、ちょっとした風邪・内科、定期検診、予防接種関連、婦人科検診、初期診察はカバーされる(専門医を紹介することもしてくれる)
  • アメリカの大都市には何か所もOne Medical Groupの支店診療所があり、自分のデータを保存してくれるので、どこに行っても同じサービスを受けることができるという安心感がある上、医者の食べログ的なZocDocで検索して行く時よりも書類提出の手間暇が省略できる
  • アメリカの医療の現場には珍しいpatient centric careをミッションに掲げていて、医師・看護師とも非常に感じが良い 
  • アプリでの予約や24時間サポートも充実。具合が悪いときにフラフラしながら病院を探したりしなくていいのが精神的にも◎
  • 年会費 $199
  • 参考:One Medical Group ウェブサイト、2017年にFast CompanyのMost Innovative Company top 50に選ばれた時の記事
 (*)自分が今加入している保険がOne Medical Groupで使えるかどうかはココを参照。11行x4列の箱にめげずに自分の入っている保険があるか探して見ましょう。PPO (Preferred Provider Organization), POS (Point of Service), EPO (Exclusive Provider Organization), HMO (Health Maintenance Organization)についてはいつかまたどこかで書きます。

(2) 所属組織の人事が設定している福利厚生関連プラットフォーム(多くの場合はADPを使っていることが多い)で自分の保険内容を確認しよう

  • ADP (Automatic Data Processing)社は大手給与計算アウトソーシング会社で企業向けの給与計算サービスを主要業務としている会社
  • 例えば私の場合はここからログイン。福利厚生・給与・税金関連書類・401K資産運用関連の情報全てがここで確認・管理できるようになっている
  • My Benefitというメニューから私の場合以下の3つに加入していることが確認できる
    • 健康保険:Oxford社のプラン
    • 歯科保険:Guardian社のプラン
    • 眼科保険:VSP社のプラン 
  • もちろん、これは毎年更新の時期になると会社の人事から「今年はこういうプランになっていますが加入しますか」という説明がされて、意志を持って加入したことになる
  • それぞれ会社が違うので、それぞれWebサイトでIDとパスワードを作成し、メンバーカードが送付されてくるのでそれを整理して置いておくのが面倒。でもしょうがない、それがアメリカ医療制度
  • ADPではHealth Savings Account (HSA) という「医療に関わる費用を目的にした貯蓄口座」を作り、そこに給与天引きでお金を貯めていくことも可能。(これがあるかどうかはメインの健康保険がどういうプランかによる)
    • 税金控除がされたお金をHSA口座から直接、薬や日用品などの購入に使えるという仕組み(購入できる商品例)。上記の健康保険、歯科保険、眼科保険を使った際にかかった費用に充てることも可能
    • ただし1年間で貯蓄できる金額の上限 - 個人で55歳以前の場合は年間$3450が上限、2018年時点)を越えると税金を払わなくてはいけない
    • これも従業員として意志を持って参加する必要あり。上記の保険と違って年度内の更新時期というものはなくて、開始はいつでも可能。維持費月額$1.50、ここで貯めた金額は次年度にも繰越可能、退社しても一緒に持って行くことが可能

(3) 所属組織がどのコストを負担してくれて、自分はどこからを負担することになるかを確認しよう

  •  自分の組織の例:
    • 月額の保険費用の負担(組織負担75-85%、個人負担残り):私たちが加入しているOxford社の医療費は月額$650、これが本人+パートナーだと$1300前後、本人+家族だと$2000弱。この金額の15-25%が給与から引かれることになる
    • 年間のdeductibleが$2000であるこのプラン。その$1500までは会社が補助を出してくれる(つまりこの金額に到達して初めて保険会社がお金を払ってくれるという仕組み。参考:deductibleとは?)つまり、実質自分が自分のお財布から払わなくてはいけないのは$500ドル(年間)という計算だけれどここはちょっと色々落とし穴があったりする
      • 落とし穴① IN-NETWORK、つまり対象となるOxford社指定の医院で発生した費用のみ 
      • 落とし穴② Deductible $2000を超えてもco-payたるものが存在するので(参考:co-payとは?)結局ちょこちょこと自分もお金を払うことにはなる
    • ちなみに、$1500まで補填してくれるという仕組みを理解していなかった私は入社2年ほど損をしていた・・
    • 上記は健康保険のOxford社の話なので、もちろん眼科保険、歯科保険についてはそれぞれ自分で調べておくことが必要になる

(4) 自分が行こうとしている医師・診療所がそれぞれの保険会社のカバレッジ内(In-Network)かどうかを調べておくこと

    • 保険会社はそれぞれin-networkの医者はここ、それ以外はout-of-network。と分けていて、保険の効き方が大きく異なる
    • よほどのことがない限りできる限りin-networkで大人しくしておくのが得策
    • 例えば私の場合はOne Medical Groupに最初は大体行くのだけれど(One Medical Group自体はIn-Network)そこで万が一専門医を紹介された時(例えば足の専門医のPodiatryだったり、婦人科の専門医だったり)そこにホイホイと行く前にその新しい専門医もIn-Networkかどうかを事前にOxford社に電話したり、または紹介されたクリニックに電話したりして確認しておく
    • もちろん、健康保険、眼科保険、歯科保険と会社が違う=それぞれのIn-network定義は違うのでそこはそれぞれのウェブサイト、またはzoc docなどで確認するなど手間が発生する
    • 特に紹介がなくていきなり行く場合は zoc docなどで検索するのもありだけれど、星の数ほどある医者の中から選ぶのはやや不安でもあるので、そういう意味でも誰かからの紹介(特に自分の保険を分かっている人、同じ保険に入っている人からの口コミ)は頼りになる

      (5)医者に見てもらった日、その場で払った金額、Explanation of Benefitsに記載されている自分が払うべき金額、請求書に載っている金額を一覧表にしておく

      • 結構こちらの保険会社は適当です。ちゃんとしているときは請求書が診察してもらった日の翌月とかに送られてくるものの、間があって数ヶ月かかる時も。整理しておかないと「なんだ?この請求書は?」みたいなことになる
      • また、私の組織の場合みたいに補填をしてくれる場合は当日払った金額と、後日請求された金額に対して補填がされたりするので、どの費用が請求済みでどの費用をこれから申請すべきか、など色々と情報を整理しておくことが不可欠
      • 保険会社が請求書を発行する前に送ってくるExplanation of Benefits(EOB)たる資料。記載されている金額は保険適用前のものもあったりするので、心臓が一瞬止まりそうになりますが、これは請求書とは別。これはこれで請求金額を後日支払った後の費用補填申請に必要だったりするので、補填金額が戻ってくるまではきちんと保存
      • 一覧表にしておけば、これは払った、これは費用補填してもらったなどチェックしておくことが可能
      • また、色々「あれ?」ということも少なからず発生し、それぞれの保険会社に電話することもあったりするので、上記のウェブサイトのID、パスワードを整理している時にカスタマーサポート番号とかも身近に置いておくのが便利
      以上、過去5年色々な失敗を乗り越えて身につけた「アメリカの医療保険」サバイバルtipの5つでした。また新しい学びがあったら追記しようと思います。

      いやはや、面倒くさい。大企業だと違うのだろうか・・・