子どもをバイリンガルに育てる、の話

Economist誌の記事が面白かった

最近たまたま読んだちょっと前のThe Economist誌の記事「Multilingualism Johnson: Bringing up baby bilingual」(2013/10/29)が面白かったのと、たまに良く聞かれるテーマなのでここにまとめておこうと思います。

この記事ではJohnsonという18ヶ月の子どもの話が出てきます。このJohnson君は家で英語と デンマーク語、そして保育園でドイツ語と毎日三言語環境で育てられています。

彼のような複数言語環境で育てられた子ども達。一般的にこの子達は:
①最初の頃は各言語をごっちゃにしてしまう傾向がある
②その一方で3-4歳くらいになるとこの問題はすぐに解消され、しっかりと話す言語を相手によって使い分けることができる、といった特徴があると記事は指摘します。

Economist誌は「Many parents once believed that a second language was a bad idea, as it would interfere with developing the first and more important one. But such beliefs are woefully out of date today」とスッパリ。

このように述べている根拠(関連研究)も紹介されています。例えば「一言語環境で育った子ども vs 複数言語環境で育った子ども」において前者でないと母国語能力に悪影響がある、という根拠は存在しない、というものや、「複数言語環境で育てられた子どもは一言語環境で育てられた子より"executive "スキル (※)” が優れてる」といった話。

ここで詳しくは触れませんが、early childhood educationの文脈このexecutive functionという単語は頻出ワードです。人によって定義がばらついていることが政策関係者や教育関係者の間ではまだ問題になっていますが今後もっと聞くようになると思います。
(ハーバードのCenter on the Developing ChildのFOIカンファレンスのお手伝い経験より)
http://developingchild.harvard.edu/resources/multimedia/videos/inbrief_series/inbrief_executive_function/


で、じゃあとりあえず思い立ったらすぐバイリンガル教育に走ればいいのか、というとこの記事は「そうではないよ」と釘をさすことも忘れません。

聖書の言葉「持っている者にはさらに与えられ」をこの記事は引用しつつ、「これらの研究結果は『children raised with both languages spoken by natives in their homes』環境下で証明されているものなのだ」とあります。・・・・ここでこのブログを読んでくださっている日本語nativeの方は「なんだ」とがっかりされるかもしれませんが一応記事の紹介を続けます。

条件としては家にネイティブスピーカーがいるだけでもだめ。子どもが話す相手(人)とその人が話す言語がconsistent(例:お父さんには英語、お母さんには日本語)でなくてはだめ、という説や子どもが言語を使う環境がconsistent(例:家の中では日本語、外では英語)ではなくてはだめ、という説が紹介されています。

子どもにとってその言語を話す必要性(ニーズ)を周囲の大人(親を含む)がつくり出す(=一つの言語じゃないと話が通じない一貫性のある相手や環境を定義付け)ことが大事な模様。そしてそのような環境を提供するのは早ければ早い方がいい、と私は理解しました。

単に「早ければ早いほうがいい」のではなく、一貫性のある(=ごまかしのない)ニーズがあってこそ、時間を味方にすることが意味があるのですね、と感じる記事でした。


親がネイティブ並でなくてもできることは他にも色々

ちなみに上記はインフォーマルな学習環境(学校などではない場)からの影響(家庭内でどのような言語で語りかけるか)の話でしたが、利活用できるテクノロジーやツール、メディアがありふれていくこれからの時代は親/周囲の大人の意識/知識次第で子ども達に提供できる家庭内刺激というのは過去に比べて豊かになっている気がしています。親がネイティブでなくとも上記に示した「環境を提供する」を真似ることはできるのではないかと。

とはいえ、当たり前ですがこれらのテクノロジーやツール、メディアは子どもに与えるだけではもちろんだめで、親が一緒に子どもに語りかけながら使うことに意味があります。

Informal Learning for Childrenの授業(セサミストリートが題材)でも、子どもとメディア(TVを含めた番組鑑賞もアプリ使用も)のinteractionの場に大人/親がカタリストとして存在することの重要性が強調されていました。どんなに忙しくても番組やアプリをただ与えて子どもを放置するような大人にはなりたくないものです。

見る、褒める、(思考を深めるための)問いかけをする(VygotzkyのZPD - zone of proximal developmentの考え方)- そういうことこそ子どもの周囲にいる大人がすべきことだと私は感じてます。(もちろん言うは易しですが)


VygotzkyのZPD
http://lmrtriads.wikispaces.com/より


ちなみにフォーマルな学習環境も最近は色々な選択肢が増えているようですね。過去に読んだ記事で印象的だったのは、①スイスに留学させた方々の話「5歳から始まる本物のグローバル教育ーースイスのボーディングスクールへの低年齢留学を選んだ夫婦の『英断(これは2011/11/14の現代ビジネスの記事ですが「低年齢留学」「スイス」で検索すると他にもソースがあります)、と②インドのインターナショナルに進学させた話「超難関!インド系インターに娘を入れた親心 元リクの母、元野球選手の父のサバイバル教育」(これは2013/9/26の東洋経済ONLINE)でした。個人的にはTED-Edなどを使ったFlipped Classroom(反転教室)の実践なども興味があります。


でも結局子どももそれぞれ、親/大人の押しつけ要注意

自分は日本4年(一切英語なし)+アメリカ1年弱(記憶なし)+日本4年(小学校1-4年)+イギリス3年(小学校5-中学校1年)+ 日本5年(中学校2年-高校3年)+アメリカ4年(大学4年間)とやや再現不可能的な組み合わせで育って今に至ります。

途中までほぼ同じ組み合わせだった妹は基本的なヒアリング、発音能力は身につけたものの、英語をほとんど使わない生活を今は送っています(大学も日本)。The Economistの記事にもあったように、子どもの頃の環境のみならずその後選択したeducation環境や必要性を踏まえ培われたreading and writing habitsといった要素も個人のbilingual capabilityの発育に影響があるのは姉妹間の違いからも感じます。

そのようなeducation環境やreading and writing habits形成に関わる個人として注意しなくてはいけないのは、自分の考える「こうあるべきだ」を提供するということと、相手の個人の適正や嗜好/スタイルに合わせてあげることのバランスのとりかたかな、と感じます。

私達が自分の経験に基づいて確信があることだったとしても、別の人格をもって産まれて来た人にとって(しかも自分と違う時代に産まれて来た人にとって)本当にベスト&onlyであるかどうかは常に考えなくてはいけない、と感じます。言語教育を含めて色々。

いくら自分が◯◯語が話せれば良かった(話せて良かった)と思っても、数十年後の自分の子ども達の世界でそれが同じ価値があるかは分かりません。相手のためを思って、は、常にreflective thinkingを持ちつつ行うことが大切かな、と思います。

むしろ、Economistの記事を思い出すと、とある言語のインプットを一方的に押し付けるよりは、その言語を子ども達が習得しなければいけないニーズをつくることにも工夫が大切な気がします。

【追記】このエントリ-を共有してくれた友人のFBウォールで紹介されていたこちらの書籍も参考までに。「バイリンガル教育の方法―12歳までに親と教師ができること

余談:2歳児のベビーシッター体験談


子どももいない自分が今このようなことを考えたきっかけは最近二度ほど機会があったベイビーシッターの経験でした。その子はもうすぐ2歳。普段は日本にいるけれどたまーに、ママのいるニューヨークにやってきています。

レッジョエミリア的なベビーシッターを密かに目指し、昨夜はクレヨンとカルタと冷蔵庫用のマグネットを用意していたのですが、最終的にはそれ以外にもスーパーの紙袋やコースターやスポンジの切れ端、窓の外から見える景色や永遠に流し続けていたトーマスDVDなどもフル活用。彼の興味の赴くままに、手を替え品を替え、4時間半の密度の濃いplayful learningな時間を過ごしました。

二歳児の吸収力の高さ/果てしない好奇心。。。ひたすら「ナニ?」「ドウシテ?」「コッチ!」と言う相手に満足してもらうように刺激続けるのは大変でしたが、「格闘」しがいのあるひとときでした。

私が描いたライオンに「ガオー」。羊さんに「メイメイ」。猫さんに「ニャンニャン」。車には「ブーブー」と飽きずに指差しながら楽しく学習。なぜかリンゴだけ「アップー(ル)」でした。

いつかは英語only、日本語only、中国語only(これは遠い未来か)対応可能な「メリーポピンズ」になりたいです。


 



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