Mechanized Intelligenceの時代に一層大事になるタイプの人間

Mechanized intelligenceの時代の将来を予測している本

先日2013年に読んで良かった本&2014年に読んでみようと思っている本リストをエントリ-に書きましたが、そこに入れなかったけれどもちょっと気になった本が経済学者Tyler Cowen(タイラー・コーエン)による「Average is Over - Powering America Beyond the Age of the Great Stagnation」。2011年の彼の著書「大停滞」の続編的な位置づけのようです。


既に始まりつつある「Mechanized (機械化された)intelligence(知能)の時代」における人間の生き方について書かれた本で、格差が更に今後広がっていくといった、やや悲観的で、ある種極端な将来予測が提示されている様子。色々とControversialな内容のようですが、未来に対する考え方の一つの参考になりそうな本です。

(参考:この本はJB Pressが9月後半に邦訳していたThe Economistの記事「アメリカンドリームの死  社会的流動性が失われる米国」でも取り上げられていました。主にアメリカの政治に関する記事ですが元記事は「The American Dream, RIP ? An economist asks provocative questions about the future of social mobility」



その本をきっかけに書かれたNYTのコラム

このアメリカという国におけるSocial mobility(貧しい家庭に生まれた人が経済的に豊かになれるかの社会における流動性)が従来比失われ始めてるかもという話は以前格差をテーマに書いたときに少し触れましたが、今回はそれがメインでなく、この本の描く世界に関してDavid BrooksがNew York Times誌のコラムに書いていた「Thinking for Future」について。
コーエンが描いているという「Mechanical Intelligence」の時代。このような世界で世の中の流れと共存し、そのような変化の中でも生き延び/成功するために重要な9つのタイプの考え方をBrooks氏は簡潔に紹介しています。

David Brooksが「mental type」という単語を使っていたものは以下の9つ。おそらく一人の人間が複数保有することが可能な考え方も含まれているのでしょう。

①臨機応変型。機械をどう使いこなすかの能力が高く、かつその機械の限界や直感が重要になることも理解できている人。humility(謙虚さ)を持っていることが不可欠。

②統合型の考え方ができるタイプ。過多情報を集め、整理し、エッセンスを凝縮しパターンやストーリーを見出すことができる人。

③人間らしさを加味するタイプ。人間特有のニーズを見極め適所でそれを機械的なものに加える力、どう加えるべきか考えられる力を有する。

④エンジニアタイプ。ユニークな課題に対するクリエイティブな解決法を見出せる人。

⑤人のモチベーションを喚起できるタイプ。machine dominated envで相手をモチベートできるマネージャーや学びの提供者は貴重になると書かれている。

⑥道徳観を持った人。効率主義に占領されそうな環境下で失われやすい忠誠心などに対する配慮を忘れない人。例えば従業員の評価がより定量的にされがちな世界でデータの限界を理解しているマネージャー。このような心構えを自律的に持つ人材が欠けている組織は人との関わり愛が希薄になり、最終的にはモラルや社会的資源のかけたものになっていく、という話も。

⑦Greeters(格差拡大の結果お金のあるtop 15%のattentionを得られる人)、⑧Economizer(節約型)、⑨Weavers(ボトム85%になったとしても逆境に負けず破壊の仕組みの中に積極的に入り込んでいく意欲のある人)個人的には⑦〜⑨はコーエンの格差拡大を前提に書かれているようなものな気がするので「ふむ」といった感じなのですが、①から⑥は確かに、と共感させられたもの。(邦訳・意訳は自己解釈ベースなので間違っているところもあるかもしれません)

Mechanized Intelligenceと共存する人間の役割

少し関連した話で先日Healthcareの分野のベンチャ-にいる経営者の方と立ち話をした時のことを思い出しました。自分がEducationの分野のベンチャ-に絡んでいる、という話をすると、もともと共通点の多い業界同士なので色々と盛り上がりました。特に一番共感したのは(HGSEでは常に言われていたことですが)「データやネットにアクセス▷変革が起きる!」という見方の厳しさについて。

データやインターネットが今後私達にもたらしてくれる可能性はたくさんあるのだろうけれども、それらのツールを自らの生活にこれから取り入れていく人達のこと、その人達の大切にしてきた価値観であったり、今歩んでいる生活習慣や学ぶキャパシティについてだったり・・・これらに対する配慮が重要で。データやインターネットというツールを、人間の生活を本当の意味で豊かにするために導入するならばそういうことを意識した設計/implementationがないと、といった話。特にITの導入に対して文化的にも心理的にも色々ハードルが高いヘルスケアと教育業界の話だったので全ての業界に当てはまるかは分かりませんが、そんな話を一緒にしました。

結局「mechanized」なツールはパワフルだけれども、それをうまく適材適所に組み込んだ形で社会に送り出すには上記の①〜⑥のようなマインド/スキルをもった人間がつなぎ役としてたくさんこれから必要、そう感じます。そしてそれはこれからの教育の目指す姿、目指すoutputを考える時に大切になる視点かな、と。


最近Social Impact測定について触れる機会が仕事柄増えていました。Input(教育の場合は学びの場、そこで提供する刺激や体験機会)、Output(学習者の視点でどういうことを受け取ったのか)、Outcome(学習者は結果としてどのようなことができるようになるのか、学びのTransferの視点)、そしてImpact(学習者は短期、中期、長期的にどのような人間になり、どのような形で周囲/社会または将来の自分に影響を及ぼす人間になっていくのかの視点)。そんな時間軸で色々と考えたときに、Mechanized Intelligenceの時代における教育のゴールというものを考えさせられます。

バカロレアの話が改めて注目されたり、プログラミングの重要性の話がほぼ毎日世界のどこかで言われているのもその流れなのかな、と感じたり。またリーダーシップの話だとAdaptive Leadership(①に対応)やStorytelling(②にも対応、ただし使い方の注意も必要)、Human Centered Design(③に対応)、モチベ-ション3.0やSimon SinekのStart with Why(YouTube動画はこちら)など最近話題になっているものを連想させるDavid Brooksのリストでした。


Photo by Robert Katzki on Unsplash


過去のエントリ-:
今の時代の子たちが学んでいること
物事の背景、別の意見を想像すること
「Character」「Grit」が重要になっている時代
4つのCとWorld Peace Game
プログラミング教育ですね・・
STEM教育/ドットインストール
「Project-Based Learning」と人財育成
Sesame Workshopについて①



参考:
「国際バカロレア」が日本で普及するために(2013/10/22 nippon.comより)
【国際バカロレア】認定校一覧 NAVERまとめ
「code.ac.jpが設置認可を受けました」(2013/12/26 code.ac.jpより)